丸ノ内財務マンの備忘録

経理・会計のメモ

2週間の決算早期化と指摘ゼロを実現した話

お疲れ様です。丸の内の財務マンと申します。
以下のツイートを投稿した所、思いのほか反応を頂きまして、まとめた次第です。皆様のお役に立てれば幸いです。

 

 

目次を見て頂ければ分かる通り、やったことはシンプルで当たり前の事です。しかし、当たり前のことを当たり前にできない企業が多いと私は考えています。数年前の私は、その当たり前に対し愚直に向き合い、試行錯誤しました。お時間が許すのであれば、ご一読頂けますと幸いです。

 

実現できた事

①2週間の連結決算の早期化
 -決算開示直前までに数字確定していた状態から開示2週間前に確定する体制の実現。
②開示書類・精算表の指摘ゼロでの開示
 -①の早期化に伴い、開示書類の検討及びチェックに十分な時間を確保でき、クオリティの高い資料作成の実現。

実現できた事は上記の通りです。②はあくまで副産物です。適切な業務に①で生まれた時間を投下出来たのに過ぎないので、このnoteでは①について詳しくお話します。

まず自己紹介

財務マンという名前ですが、現在スタートアップで経理Mgrをしています。Twitterを始めた当時は、財務分析ばかりツイートしており、その為、安易に財務という名をつけていた名残でございます…ご了承を…
 キャリアとしては、理系大学(専攻は量子力学)を卒業後、上場会社に入社し、経理部に配属。経理部では、決算開示・連結・月次・M&Aなどを経験させて頂き、現在、スタートアップで経理Mgrをしています。

決算早期化及び指摘ゼロを目指した訳

当時、私は連結・開示含めた決算チームの責任者をしておりました。しかし、社内会計士が不在かつ総合職採用のメンバーで構成していたこともあり、恥ずかしながら、兼ねてより監査法人から多くの指摘をいただく体制でありました。現状を打開せねばと思うも、上手く行かない決算が続き、どうしたものか・・・と頭を悩ませたところ、コロナがやってきました

 実はその前年に大型のM&Aを行っており、のれんが積みあがっており、業績悪化による減損業績予想の大幅な下方修正が脳裏によぎりました。加えて、指摘増加/改善傾向無しによる内部統制不備を監査法人から突き付けられると、最悪の場合、上場廃止処分になるのではと一部の社員は震えあがっておりました。
 そこで、この状況を打開すべく、指摘ゼロプロジェクトが立ち上がり、私はそのリーダーを命じられました。とはいえ、上場以後10年以上にわたり誰1人も監査法人から指摘を貰う事なく決算開示することを実現しておらず、「監査法人は指摘するのが仕事なのに?」と私は思っていましたが、上からはとにかくやれ!の状態でした。

火中の栗を拾うつもりでリーダーを引き受けました。前例がない中でしたが、立ち止まって冷静に考えると、1つだけ明確に答えが出ているものがありました。

今までのやり方だと、同じ結果になる。

過去、決算を支えて頂いた先輩方は尊敬していますが、その人たちでも成しえなかった事に挑戦するときに同じやり方をしていてもダメです。絶対同じ結果になるだけです。今までと異なるやり方で勝負すべきだという事は本能的に感じていました。

さて、どうしたものか・・・・

数日悩んだ結果、「施策を打つには今の業務量じゃきついよね」とシンプルな場所に腹落ちし、まず施策をするための時間を作ろう!となりました。

Step1:余剰時間を生み出す

 

どんな施策をするにしても、施策を実行する時間が必要です。経理メンバーは通常業務でカツカツ。そんな状況で施策を行っても、メンバーの反感を買うだけで前に進みません。

そこでまず各人の業務を効率化し、余剰時間を生み出すことにフォーカスしました。業務効率化と聞くと、システム導入・ペーパレス化等、大きなプロジェクトを想像しますが、そのようなすぐ思いつく施策に本質的解決策は無いと考えていました。

そんな時、アインシュタインの言葉に出会いました。

複利は人類最大の発明である(アルベルト・アインシュタイン

 

「これは使えるかも!!」と直感的に思いました。そこで、大きな業務効率化ではなく、小さな業務効率化を積み重ねる事で、複利的に大きな時間を生み出せないか?と考えるようになりました。

小さな業務効率化を積み重ねる

アインシュタインの言葉をテーマに、以下のサイクルを経理チーム内で回せないかを考えました。

  1. 少し業務効率化する
  2. 少し時間が出来る
  3. 新しく出来た時間で、別の少し業務効率化する
  4. また時間が出来る
  5. 更に新しく出来た時間で、別の少し業務効率化する
  6. これを繰り返す

具体的にすると、以下のようなイメージです。

  1. 30分の作業を20分に効率化する
  2. +10分の時間が生まれる
  3. その10分の時間で、30分の業務を25分に効率化する
  4. +5分の時間が出来る
  5. +15分(5分+10分)の時間で、30分の業務を20分に効率化する
  6. 最初の状態から、+25分の余剰時間が生まれる
  7. その時間をさらに、業務効率化に充てる
  8. これを繰り返す

行った業務効率化は、仕訳インポートのフォーマットを整えたり、残高をチェックしやすいような集計に変えたりと、小さな改善です。ただその積み重ねによって、手間をかけず仕訳を投入出来たり、残高のズレに早く気づけたり、残高集計が楽になったり、地道に時間を生み出していきました。業務上で不便だと思う部分を中心に小さな効率化を積み重ねていきました。

やり直しをなくす

次の施策としてはやり直しに着目しました。経理の特性上、請求書データ確定後に前払費用の計上・取崩を行うといった順序が非常に重要です。
その為、残高確定後に前工程のミスが発覚し、後工程の業務がやり直し、もう一度残高確定を行うことが度々起こっておりました。
要は、1つのミスにより、修正・再チェックと2つ業務が発生する状況でした。(非常にもったいない!!)業務スピードを速くするよりも、正確に期日通り遂行する方が、時間短縮に寄与すると気づきました。

そこで、小さな業務効率化の積み重ねで生まれた時間を、やり直し撲滅に費やしました。具体的に行った事は以下です。

  • 1つの業務を2人以上行えるように、業務ローテーション

  • 月次決算中の毎朝、進捗MTGを行い、順番が前後しないように管理

業務ローテーションは非常に効果的でした。今までダブルチェックが出来なかったり、属人的だった分野が少なくなりました。加えて、各人の業務カバー範囲が広くなり、1人が業務過多になったとしても他のメンバーが助け合える状況になりました。

Step2:チームの当たり前を高める

 

小さな業務効率化の積み重ね&やり直しの減少で、徐々にチームとしての余力が生まれ、変わり始めました。そこでついに会計知識の領域に手を付け始めました。

基準書まで確認する

これは至極当然なのですが、徹底出来ている経理パーソンは少ないと思います。なぜなら日々、勉強する余裕・時間がないからです。まず時間の確保をStep1で行っているのはこのためです。
監査法人と同じ土俵で議論する為には、同じ知識を持つことが前提です。小手先のテクニックではなく、会計知識の理解は王道であり、避けては通れないのです。
社内会計士も不在&予算も使えない中だったため、独立会計士に依頼し、基準書の読み方の勉強会を開催し、知識を内製化をしていきました。(独立会計士は顧客が欲しいケースが多い為、喜んで受けて頂きました。今でもwinwinな関係が続いているそうです。)
 Step1のおかげで、時間には余裕がありました。その為、会計処理の議論がしっかり出来るようになりました。必ず根拠条文を基準書や参考図書を照らし合わせて進めました。勿論、不明点は会計士に相談し、社内で完結できるようにしました。

やらないことを決める

経理であってもプロジェクト成功の為には、戦略が大事です。しかし経理はやるべきこと・やれることが無限にあるため、選択と集中を行いました。具体的には、決算タスク表に記載のないタスクはやらない事を決めました。

タスクが漏れたら、どうするんだ!?と一部のメンバーから声がありましたが、私の回答は「じゃあタスク表に記載してください」だけです。
経理という減点方式の業務に慣れている人にとっては受け入れ難いルールだったと思います。しかし、決算タスク表以外のタスクを捨てるからこそ、決算タスク表が強固になると考えてました。

結果として、以下のサイクルが機能し、チームとしてイレギュラー事項への対応体制が盤石になってきました。

  1. 全員がタスク表に記入する
  2. 担当者以外がほかの人のタスクを認識する
    1. 全員で抜け漏れを確認できる
    2. イレギュラー事項に早く気づける
    3. 小さな効率化の種を発見できる←これ重要
  3. 各担当者が事前に手を打てる
  4. 改善の種が見つかり、よりチームが強くなる

加えて、この施策を継続していくと、全員が共通のタスク表を確認しているので、万が一タスク漏れやミスがあったとしても、そのタスク表に追加するだけで、質の高い再発防止策になります。

Step3:資料の1stクオリティを重視する

 

余剰時間を生み出し、チームとして知識レベルが上がると、ついに運用面です。ここまでくると、事業経営と同様にKPIを決めて全力を尽くすのみです。

チームのレベルも上がり、体制としては盤石でした。多くの経理メンバーが 資料の修正時間を考慮したスケジュールで進めれるほどでした。この時、私が最も懸念したのはケアレスミスです。不注意によるうっかりミスは本当に防ぎようがないですし、当の本人を詰め寄っても何も解決しません。そこで、私は熟考の末、経理メンバーが常に余裕があり、集中できる環境を作ることを目的に、資料の1stクオリティをKPIにしました。

1stクオリティが悪いケースと、良いケースを比較してみましょう。

1st資料のクオリティが悪い場合

以下のような流れです。

①1st資料チェックする
②ミス発覚
③やり直す
④2nd資料チェックする
⑤次の業務へ移る

やり直しが発生する事で、③④の工数が増えてます。(これはStep1でも触れた通りです。)加えて、チェック者の気持ちを考えると、1st時点よりも2nd時点の方がチェック(行程④)は甘くなりがちです。なぜなら①時点でOKだった箇所を飛ばしてしまうケースがあるからです。人間だれしも楽に流れるものです。これは人間の性質上、仕方のない事です。しかも決算で忙しいなら尚更です。

では、1st資料のクオリティが良かったケースを考えてみましょう。

1st資料のクオリティが良い場合

以下のような流れです。

①1st資料チェックする
②次の業務に移る

上記だけだと、特段予定通りに仕事が進んでいるだけですが、資料の修正時間を考慮したスケジュールで仕事しているメンバーが多いと、修正時間の予定だった時間を次の業務に回すことができます。

要するに、1stクオリティが良いと次の業務に時間をより充てれるので、さらに良い資料が出来上がっていく訳です。そして、次の業務の1stクオリティが上がっていく。良いサイクルが生まれていきます。

結果として、決算中でも定時に上がれたり、監査法人からの質問も格段に減り、時間的にも精神的にも良い環境が出来上がり、ケアレスミスが格段に減りました。

Step3の先にあったもの

さて、Step1~3は決算と並行して進めていました。複利の力で余力時間を作り、基準書と向き合う時間を増やしていき、1stクオリティに命を懸けるチームを創っていきました。1年ほどかかりました。時間をかけてチームを創ったこともあり、着実に指摘の数が減ってきました。1Q決算は5~7個、その反省で臨んだ2Q決算は惜しくも3~4個。そして、3Q決算では、監査法人のシニアマネジャーの方から、「今回の決算では、我々の指摘する事項は有りませんでした。」というお言葉を頂きました。あの時は、本当に感動したし、自分の中で何かがブレイクスルーした感覚がありました。

おわりに

ここまで読んで頂きありがとうございました。振り返ってみても重要なのはやはり【Step1:余剰時間を生み出す】です。時間はすべての源だと改めて感じました。様々な経理パーソンにお会いすると、月次が忙しい・時間が無いという人が多いです。しかし、小さな改善を愚直に繰り返すことで、いつか臨界点を超え、時間が生まれていきます。経理という仕事上、いかに余力を生み出すか、その余力を改善や知識習得に充てれるかはチームを強化する上で重要な観点です。このnoteを機に、複利を活かし、よりより経理ライフを創って頂けますと幸いです。

※DMいただければ、決算早期化・業務効率化の相談乗りますので、お気軽にご連絡ください。

補足①:小さな効率化でやったこと(随時更新します)

  • 仕訳インポートフォーマットの整備

    • 計上日をtoday関数を使って自動入力

    • インポートデータ作成ファイルで、インポート後の残高が分かるようにする

  • ダブルチェック後のファイル名は、冒頭に【★】を付けた

  • 「yymm」というフォルダを自動生成するバッチ作成

  • 「yymmdd」という前日名のフォルダを自動生成するバッチを作成

  • 決算タスク表をExcelではなく、スプレットシートに移管し、共同編集できるようにした

  • 残高チェック時には、「✔_日付_名前」を記載した

  • 数字の転記を行った際、どこから転記したかファイル名まで記載するようにした

  • 20社で1ファイルだったものを、監査対象会社ごとに分類し、分業できるようにした。

  • 手作業で仕訳インポートデータを数社分作成していたものを、マクロ化

補足②:決算タスク表

私が使っているタスク表です。良ければご使用ください。

https://1drv.ms/x/s!Ak30S631rFaztmDAD129r9XQMhF7?e=me0HTI